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関根デッカオ's 不肖動静

筆者の頭部に、大きさなりのはたらきを見せてもらおうという試みです。

中国人と地を這う視線

日記

 過ぎし日に行った喫茶店、先客は中国人と思しきカップルのみであった。彼らの姿がよく見える席に通され、コーヒーを注文。僕はすぐさま立ち上がり、尿意解消を図った。席に戻ると、ちょうどよいタイミングでコーヒーが供された。

 

  はた目には、深刻なふうに見える2人の男女。否が応でも興味を惹かれてしまう。背筋は揃って湾曲し、交わす言葉もまばら。ただ、うつろな面持ちで対面しているのである。ともに頑として手を使おうとはせず、自ら腰を折り、カップのふちに口を持っていく。そういう契りを結んでいるのだろうか。僕には分からない。ミニスカートの女の頭にあしらわれた猫の耳のカチューシャが、机上に置かれたテイクアウトのお好み焼きが、いくらか場を和ませるかのようだが、実際のところ、それほどの効果は発揮していない印象である。否定しがたい倦怠感が店内に充満するなか、何度となく鳴り続けるメールの着信音。双方とも反応しようとはしない。眼前に展開される状況を飲み込めないままに、僕は目の覚めるような苦味を飲み込むばかりであった。

 

 が、こちらの杞憂は無用だったようだ。カップのコーヒーが減ずるに従い、彼らの表情もほころびを見せるようになった。ミナミの街によく見られる大音声観光客とは、性質を異にしているようだ。次なる目的地を相談しているのだろうか、スマートフォンを見せっこし、時折おいしそうにタバコの煙を立ち上らせる。視線こそ相変わらず謎の低空飛行を続けていたものの、ごくごく平凡なカップルが歩き疲れ、一服しているにすぎぬことが分かった。

 

 やがて2人は行く先を決めたのか精算を済ませ、厨房の方にやたらとていねいな会釈を繰り返し、出かけて行った。先ほどまでの猫背は、このための鍛錬だったのかと思わされるほどであった。ひとり残された僕は、彼らの恋が異国の地についえなかったことに妙な安堵感を覚えつつ、残り少しとなったコーヒーをグッと流し込み、ほどなく店を出た。